映画感想

ディナーラッシュ【感想・考察・名言】

ディナーラッシュはただの群像劇ではない

 

5年以上付き合いのある友人から「ディナーラッシュを見てほしい」と頼まれた。

そして更に一言「勧めたところで誰も見てくれなかった」と付け加えられる。

正直に言うと、それを聞いて身構えてしまったのだが結論から言おう。

 

この映画は、料理映画としても群像劇としても素晴らしい。

非常によくできた人間ドラマである。

映画好きに勧めたい度:
舞台はニューヨークにある予約3ヶ月待ちの人気レストラン
わずか90分で駆け抜けるお手本のような群像劇

 

ディナーラッシュの登場人物はとても多い。

ゴッド・ファーザーとレオンに出てたような気がする爺さんに始まり、セクシーな瞳の料理長とギャンブル狂いの副料理長

そして副料理長とわずか数分間だけ店から抜け出して恋を楽しむ素朴な顔のウェイトレス

これだけでもすでにお腹いっぱいだと言うのに、口うるさい画商とアーティスト集団から、抱いてやれば絶賛記事を書いてくれる超有名ライターまでいる。

店内のカウンター席を任されているクイズ王のバーテンダーや、そこに座る趣味の悪いネクタイをしたウォール街務めの証券マンなど、もう挙げたらキリがないとはまさにこのことだ。

この映画で非凡な人間はただ1人だけ。

あとは癖の強い連中しかいない。

そして、その唯一非凡な人がギャングに撃ち殺されるところから物語は動き出す。

殺されたのはゴッドファーザーに出てた爺さんの親友だった男。

 

長年連れ添った相棒の死

これは復讐劇の始まりに違いない。そう思っていた。

 

ディナーラッシュが描くのはリアルな厨房風景

オシャレなBGMと共にシーンが変わり、本作の舞台となるレストランへ。

フライパンを振るったときの音から食器の重なる音まで、全てがリアルに描かれている。

この映画におけるレストランの厨房というのはまさに戦争だ。

司令塔であるシェフの命令は絶対であり、許された返事は3つのみ。

「シェフへの答えは3つだ。”はい” ”いいえ” ”知りません” ……わかったか?」

 

高慢な料理長だけでなく、この厨房を任されている副料理長も当然のようにまともじゃない。

登場して早々に「料理に使う材料や調味料、道具の一つだってシェフが定位置と決めた場所から1ミリでも動かすな!」と怒り狂う。

客の数がピークを迎える戦争時に困るからだそうだ。

 

 

それにしてもこの副料理長……、数千ドル賭けたバスケの試合をラジオで聞きながら一喜一憂したり、料理をほっぽらかして素朴な顔のウェイトレスと外でヤったりあまりにも自由奔放な男である。

ただ料理だけはオーナーさえ認めるほどの腕前だからまた面白い。

「もう賭け事は辞めろ」

苦言を呈しながらも、目は料理から離さないオーナーがたまらなくイイ。

 

このレストランでは停電が起きようがお構いなし。

すかさずキャンドルを用意してハプニングであってもイベントに変えてしまう。

店内に有名な画商が来ていたり、ガラの悪いギャングがいたり、雰囲気がいつもと少しだけ違うなんて感じる暇さえない。

ここでは常に時間との戦いだ。

なのに、副料理長は数千ドル賭けたバスケチームが負けたことがショックでうなだれている。

 

どうやら賭けに負けたことよりも、その金が払えないことにあるようだ。

その払い先はレストランのバルコニー席で自分の料理を旨いと言いながら食っている2人組のギャングという始末。

金を払えない、殺されるかもしれない。

自分を可愛がってくれるオーナーからはギャンブルは辞めろと散々言われてきた。相談してもきっと助けてはくれないだろう。

呆然とする副料理長にホールを担当している黒人のゲイはアドバイスをした。

 

俺だったら料理に毒を入れる

 

偶然にも副料理長が座り込んだ目の前には殺鼠剤があった。

すかさず手に取り、ギャング用に作ったステーキにこれでもかとまぶす。

 

完成したステーキを持っていく瞬間に、色んなことが脳裏を過ぎったのだろうか。

 

なんと副料理長は毒入りステーキをゴミ箱に投げ捨て、店を飛び出してしまった。

 

親子の確執を短い会話だけで綺麗に描く

「親父、そろそろ店をくれよ。俺はこんなにも繁盛させた」

「まだ駄目だ。母さんの愛した店をこんなに今風にしやがって」

 

二人の背景を語る会話はこれくらいしかない。

 

何度か交わされる短い会話からわかるのは下記の3つ

 

  1. オーナーであり父親でもある立場からみても息子は優秀である
  2. ライターの女と寝て絶賛記事を書かせたが事実として繁盛させた
  3. いつか店を託そうと思って入るが、今がその時だと思っていない

 

オーナーの表情はどうにもまだやらなければいけないことがある、といった顔だ。

息子からすれば「いつか渡す」と言いながらもずっと料理長として雇われ続け、挙句の果てに自分よりもギャンブル狂いの副料理長が作る料理を気に入っているときたらそりゃ面白くない。

こうしてる間にも客は次から次へと入ってくる。

料理長が大事にしている一級品の客が来た。

ギャングから逃げて店を飛び出した副料理長が吹っ切れた顔で戻ってくる。

このあと二人は協力して、最高傑作とも言える料理を作り上げるのだった。

 

「こんな料理、どこで思いついたんだ」

「夢の中さ」

二人のシェフが交わす短い会話がたまらなくイイ。

料理への情熱だけは通じ合ってんだなと感じさせられる。

プライドの高い料理長が大事な客への料理を運ぼうとして、歩くのを止めて振り返る。

ライバルである副料理長の名前を呼び、賛辞と感謝の言葉を送った。

 

「ありがとう」

「シェフらしくもない」

 

物語が終盤へ差し掛かる間際のこのやりとりが最も好きだ。

 

なぜギャングはこの街に目をつけたのか

 

これまでギャングが街に姿を現すこともなかったし、誰かが殺されることもなかった。

あの二人組みのギャングは他所からきている。

このレストランで働く副料理長から金を回収するためにやって来たのだ。

 

 

はっきりと明らかにされていないが、おそらく流れはこうだろう。

  • 賭けに負け続けた副料理長の金を回収しにギャングが街にやってきた
  • 副料理長を探しがてら稼ぎの良い物件があればビジネスを持ちかける
  • ビジネスを断った者、つまり分け前を渡さない者は殺す(親友の死)
  • 副料理長の働くレストランに入り、店が繁盛していることに目をつける
  • 賭博の胴元の権利だけじゃなくレストランもよこせとオーナーを脅す

 

 

物語終盤

オーナーは副料理長を部屋に呼びつけ1万ドル以上入った封筒を渡す。

 

「これをギャングに渡してこい、そして縁を切れ。賭博も辞めろ。」

 

親父気取りか、俺が外で何をしようと勝手だと喚く副料理長に激怒し、オーナーが吠える。

 

「ギャングが来たのはお前のせいだ。25年間だれも殺されることがなかった。なのに俺の親友は死んだ」

 

怒りと哀しみが混じった鬼気迫る怒鳴り声に厨房のスタッフ全員が驚く。

 

金を受け取ったところに料理長が部屋に入ってきた。

気まずそうにした副料理長が出ていったあと、料理長はオーナーに正直な気持ちを吐露する。

 

「もう限界だ。いつまでたっても店は渡さないし、ギャンブル狂いの救いようがない副料理長を助け続ける」

 

どうやら今夜は過去最高の客数を記録したようだった。

それを聞いたオーナーが答える。

 

「よかった 良い祝いになる」

 

どうやら今日で店を息子に託すつもりだったらしい。

物語中盤からずっとオーナーと同じテーブルにいた男が諸々の書類を作っている。

オーナーの中でとうの昔に考えは決まっていたようだ。

 

「お前は料理が上手い そして教えるのもな」

 

まるで最期だと言わんばかりに息子を褒めて厨房を去っていった。

 

なにもかも全てがオーナーの手のひらの上だった

 

この映画が何度でも見たくなる理由のひとつにラスト10分間で多くのことが片付いてしまうことがあげられるだろう。

 

一夜にして、料理長はオーナーとなり店を手に入れ

副料理長は借金を完済してウェイトレスの彼女と一緒に休暇を取り

街を脅かす他所から来た二人組みのギャングはヒットマンに始末され

そのギャングの死体は偶然にも予約が取れた刑事夫婦が第一発見者となる。

 

これら全ての案件にオーナーが絡んでいた。

刑事が店にいたことも偶然なんかではなく、オーナーが特別に招待したのだ。

 

ギャングを始末したヒットマンは「お前だったのかよ」と言いたくなるほど最初から店にいた男だった。

 

そして、仕事を終えたヒットマンに労いの言葉をかけたあとのオーナーと秘書が交わす車の中での会話がたまらなくイイ……。

 

知ってるか。復讐とうまい料理はあとを引く。

……”後味も格別”だ。

ディナー・ラッシュ

まだ見てない人も、もう一度見たくなった人も是非