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メイプルストーリーの思い出【β時代】その2

メイプルストーリーには現代を生き抜く力がある

あの頃、誰もが純粋な子供だった。

人の狩場にうっかり踏み入ると殺される可能性があるというのも、現代と通じる。

パーソナルスペースというのをご存知だろうか。

縄張り意識という言葉で表すほうが適当かもしれない。

 

なんとなくわかってもらえると思う距離感的なもの。

メイプルストーリーのプレイヤーの9割は子供であることから自分以外の人に対しての警戒心は無いに等しい。

 

……というわけはなく、ガッチガチに警戒心が強かった。

 

それもそのはずだろう。

 

昭和生まれは「人を見たら挨拶をしなさい」と言われ育つ。

メイプルストーリーをプレイする平成生まれというのは、

知らない人には気をつけろ」と言われて育った世代である。

 

よって、パーソナルスペースが次のようになるのも必然。

 

他プレイヤーと仲良くなるためにはATフィールドを3枚破らねばならない。

相手と同じMAPに入り、自分は敵ではないことを示し、その上で武力によるマウントを取らないことを証明して、ようやく友達となれる。

 

そんな苦労をして仲間となった者同士は鋼鉄の絆で結ばれる。

どんなときもお互いを信頼し合うのだ。

 

メイプルストーリーで初めての友達は盗賊だった

最初の友達は盗賊。

メイプルストーリーで盗賊といえば、短剣を持った職業だ。

もちろんメイプルストーリーは治安の悪さナンバーワンMMORPGなので、そんな単純な意味ではない。

 

そいつはダークボアという名前の魔法使いだった。

自称IQ180で特技はプレイヤーのアイテムを盗ること。

今思い出してもとんでもないプレイヤーだ。

ちなみにIQ180というのは友達になったときの会話で判明した。

 

ダークボア「おまえIQいくつ?」

 

ぼく「180」

 

ダークボア「まじで」

 

 

 

ダークボア「おれといっしょかよ」

 

スリーピーウッドの受付でアイテムを奪う日々

β時代のラストダンジョン付近の憩いの場には上級プレイヤーが集まる。

そこに目をつけスリーピーウッドという場所で盗みをはじめた。

 

ダークボアと二人でアイテムを奪う手順はこうだ。

  1. スリーピーウッドというサウナの受付で待ち伏せ
  2. 入ってきたプレイヤーに全体チャットで声をかける
  3. 相手の緊張を解く軽快な会話をしながら装備を物色
  4. その装備もしかして○○?すげー!!と褒める
  5. ブログで使いたいから写真を取らせてと頼み込む
  6. 泣き顔+キー↓連打で這いつくばり誠意を見せる
  7. 相手がアイテムを落とした瞬間に奪い取って逃走

 

何時間も作戦会議をした末に編み出した完璧とも言える手順……。

とくに「そのレアアイテムを見せて!」と「ブログに載せてみんなに自慢したいんだ!」の凶悪コンボが子供の承認欲求を満たすのに十分すぎた。

そのため、声をかけて会話が始まってからの成功率は100%。

おまえのもっているアイテムをありのままの姿で写真を取りたいから、そいつを地面におとせという意味不明な要求さえ簡単に通る時代。

 

それでもお互い一人のときはなぜか成功しなかった。

無邪気な二人組だったからこそ相手も心を許したのかもしれない。

学校が終わって家に帰って手洗いうがいをしたら盗む日々。

来る日も来る日も盗んだ。

 

しかし、楽しい日々は突然終わりを告げた。

 

 

「アイテムおとすのはいいけど、おまえらとおくにはなれろよ」

 

IQ180超えの子供が現れてしまったのだ。

 

 

ぼくらはただのレアアイテム写真収集家に成り果てた

 

やはりインターネットはすごい。

スリーピーウッドでアイテム見せてと言われ落としたら盗まれた!みんな気をつけて!という噂が流れ始める。

 

それから成功率がガクッと落ちた。

失敗続きでいつの間にかレアアイテムの写真を集めるマニアックな二人組みになっていた。

 

このままじゃいけない。どうしたらまた盗めるんだ。

自称IQ180の小学生2人は考える。

そして一つの答えにたどり着いた。

 

「はなれてもテレポつかえばいける」

 

テレポと言うのは魔法使いにだけ許されたスキルだ。

キャラクター6人分くらいの距離を一瞬で移動することができるスキルだった。

 

アイテムを落とすのはいい。でもお前たちは怪しい。だから離れろ。

そう言われてしまってはもう相手に従うしかない……。

誰かに従うのはいい……。

でも、楽して超レアなアイテムをバンバン盗める快感を知ってしまった以上、普通のプレイには戻るのだけは嫌だった。

 

俺たちの楽しい日々を奪うなと、楽しかった日々を返せと言わんばかりに二人はテレポの移動距離の感覚を身体に叩き込んだ。

何度も失敗した。

やはり実践は違う。

相手の位置次第で、テレポが1回で届く距離なのか2回で届く距離なのかがわからず行き過ぎたりしてしまうという恥を晒した。

失敗するたび何度も馬鹿にされた。

 

それでも二人は挫けない。

レアアイテムを盗むため徹底的に調べ尽くす。

 

調査の結果、次のことがわかった。

  • プレイヤーの止まる位置が3つに絞られること
  • 受付NPCに話しかけるために中央まで歩いた位置
  • 受付エリアに入ったときの転送位置は向きで決まる
  • 転送位置は中央寄りか出口寄りの2パターンのみ

 

さらに二人は「離れろ」と言われたときの待機位置を決めた。

 

ダークボアは↑で待機。

ここは下方向テレポ2回で盗める位置だ。

青い小瓶のあるあたりで引っかかるが間髪入れずに下方向テレポで突っ切る。

 

自分は←で待機。

ここは右方向テレポ2回で盗める位置だ。

転送位置の中央寄りパターンはそのまま2回のテレポで盗めるが、出口寄りの転送位置だった場合のみ「ちょい歩きテレポ」という高等テクニックを要した。

 

そしてターゲットが現れた。

 

「すげー!その装備みせて!」

決して手順は変えない。

あくまでもブログのために装備の写真が欲しい。

 

「いいよ」

 

かかった。

 

 

「でも……」

 

 

 

「とおくにはなれろよ」

 

 

思い出は遠くの日々に……

 

ターゲットがアイテムを落とした。

 

距離は遠め、転送位置が出口寄りのパターン

つまり自分の仕事。

しかも「ちょい歩きテレポ」が必要な距離だ。

 

クナイの形をしたアイテムが落とされ、宙を舞う。

アイテムが地面につくまでの一瞬の隙に、私はちょい歩きテレポを繰り出す。

 

 

そして相手のキャラと自分のキャラが完全に重なった。

 

 

成功した。

 

私たちはすぐに接続チャンネルを移動して逃げる。

 

 

奪われた楽しい日々を取り返した瞬間だった。

そして小学生がPDCAを回した瞬間でもあった。

 

奪ったレアアイテムは雷の手裏剣と呼ばれる超ウルトラレアアイテムだ。

一部のエリートアサシンしか所持していないもの……

 

これを盗んだという事実が、自分たちがエリートアサシンを超えたとさえ思えた。

 

ダークボア「やったな!!!!!!」

ぼく「ついに成功した!!!!」

 

私たちは歓喜のあまりジャンプしまくった。

 

そしてこういった。

 

 

ぼく「いままでごくろうさん」

ぼく「これはもらっていく」

 

 

ダークボア「えっ」

 

私は彼を裏切り、雷の手裏剣を独り占めしたのだ。

 

 

 

次回:メイプルストーリーの思い出【新大陸編】